
ブーツィの「ンペッ、ンペッ」に踊り狂った日 — Katsuhiko Sakaguchi
目次
80年代後半、ストーンズ界隈に感じた行き詰まり
ストーンズの「ダーティー・ワーク」、ミック・ジャガーのソロ。悔しいけど私には満足できるものではなかった80年代後半のストーンズ界隈。そういえばこの時期はPファンク、プリンスにハマっていて、ロックに刺激を感じることはなかったなぁ…。
そんな時に出会ったアルバムがこの「トーク・イズ・チープ」。キース・リチャーズの初めてのソロアルバムだった。永年のストーンズファンとしては、期待感薄くても聴き逃すわけにはいかない。ということでアナログLP(輸入盤)を購入。
A面1曲目に針を落とす — まさかのどファンク
「あ、オレのソロね!」って感じのデカ顔ジャケもなかなかいいなと思いつつ、まずはA面1曲目に針を落とす。
ええぇー!どファンクかい!しかも聴き覚えのある「ンペッ、ンペッ」ブーツィらしきベースが。さっそくメンバーを見てみると、ブーツィのみならず、バーニー・ウォーレル、メイシオ・パーカーまでいるではないか!
Pファンクにハマっていた私は歓喜して踊り狂うしかなかったな。
キースの人脈におそれいったのと、気に入った音楽はどこかで繋がってくるもんだと感心した。
この曲「ビッグ・イナフ」、ドラムはシンプルなれど、ファンクの手練れが生み出すグルーヴとそれに乗っかるキースのギターカッティング!大いに満足!
A面の展開 — R&R、ソウル、レゲエ
続くA面2曲目、真骨頂ギターリフで始まるR&R「テイク・イット・ソー・ハード」。この曲に限らず、アルバム全体に感じることだけど、ほとんどフィルインなしのタイトなドラムと、リブァーヴ感なしのギターがつくる音像はまさに骨太。
A面3、4もR&Rでノったところで「メイク・ノー・ミステイク」サラ・ダッシュのヴォーカルとメンフィスホーンズのホーンがグッとくるソウルフルな曲。バーニー・ウォーレルのオルガンソロが涙もの…いい…。
A面最後はレゲエ調。「ユー・ドント・ムーヴ・ミー」(お前に心は動かない)は、ミックのことを歌ったものだとキース自伝「ライフ」にあった。
B面 — ポップな R&R からロールするグルーヴへ
B面ものっけからR&R全開。「ハウ・アイ・ウィッシュ」は、次のストーンズのアルバム「スティール・ホイールズ」に繋がるポップなR&R。
しっとりシブいB面4曲目「ロックド・アウェイ」の後半で聴けるリズムとメロディが絶妙に絡まるギター。地味だけど絶対の聴きどころだな。
B面締めは、またもちょいファンキーかつロールする1曲。これはギター弾きまくり、リズム感に圧倒されまくり!
キース流への昇華、そしてグルーヴの正体
ストーンズ本体の行き詰まり感、ミック・ジャガーへの不信感のなかで、キースがこの時やりたかった音楽を豪快にぶつけたと思われる。R&R、レゲエ、ソウル、ファンク…を見事にキース流R&Rに昇華する。
グルーヴって音が抜けた間(ま)が作りだすのだね。
1枚を通して聴いてみるとそれがよくわかる。間違いなく私が愛聴するアルバムの1枚である。
(さかやん1962)
編集後記
坂口さん — 「さかやん1962」は、私(ナミオ)がかつてカタログハウスという会社に在籍していた時の同僚で、そして何より、青い時代の大事な音楽仲間だ。今でも、何度か一緒にスタジオでも遊んだ。今はすっかりお偉いさんになってしまったけれど、原稿から聴こえてくる熱量はあの頃のままだ。
THE BOOTS のギター弾きとして「イカすバンド天国」で17代イカ天キングに輝いた彼が、80年代後半に「トーク・イズ・チープ」に出会って歓喜した時間 — その瞬間が、この文章の中に鮮明に生きている。A面1曲目に針を落とした瞬間の「ええぇー!どファンクかい!」という叫び。ブーツィ・コリンズ、バーニー・ウォーレル、メイシオ・パーカー… Pファンクに夢中になっていた彼が、キースのソロアルバムの中にその人脈を発見する。好きな音楽はどこかで必ず繋がっている — これは Album Sweet が届けたい体験そのものだ。
「グルーヴは音が抜けた間(ま)が作りだす」— 実際にギターを弾いてきた人にしか書けない結語。坂口さん、いい原稿をありがとう。また、スタジオで会おう。
Pファンク人脈が参加したロック系アルバム
バーニー・ウォーレル(キーボード)、メイシオ・パーカー(サックス)、ブーツィ・コリンズ(ベース)らParliament / Funkadelic コアメンバーは、1980年代から90年代にかけてロック・ポップの世界にも積極的に越境した。
- バーニー・ウォーレル:Talking Heads「Remain in Light」(1980)や「Speaking in Tongues」(1983)でキーボードを担当。ファンクとニューウェーブを接続した歴史的録音として知られる
- メイシオ・パーカー:ジェームス・ブラウン出身後、1990年代に多数のロック・ポップ作品へサックスで参加。Prince や Madonna 作品への客演でも知られる
- ブーツィ・コリンズ:本コラムで取り上げた「Talk Is Cheap」(1988) 参加がその代表例。Deee-Lite「World Clique」(1990)等にも参加し、ジャンルを横断するクロスオーバーの幅を示した
Pファンクメンバーと共演したロックギタリスト
キース・リチャーズ以外にも、ロック界の重鎮たちがPファンク人脈との共演を果たしている。
- デヴィッド・バーン(Talking Heads):バーニー・ウォーレルとの長期共演で「アフリカン・リズム+ファンク」をロックに統合。「Remain in Light」はファンクとロックの接点として今も語り継がれる
- フリー(Red Hot Chili Peppers):ジョージ・クリントンとの共演を経て、Pファンクの哲学(グルーヴは間が作る)を最もロック的に体現したベーシストとして知られる
- ヴァーノン・リード(Living Colour):ジョージ・クリントンとの共演を通じてPファンク美学をヘビーロックに融合。1988年のデビュー作「Vivid」はその成果として高く評価されている
イカすバンド天国(イカ天)と歴代キング
TBS系で1989年〜1990年に放映された「イカすバンド天国」(通称:イカ天)は、アマチュアバンドが5週連続勝ち抜くと「イカ天キング」に認定される伝説の深夜番組だった。本コラムの書き手・坂口勝彦さんが所属したTHE BOOTSは17代イカ天キングに輝いた。
番組は日本のインディーズ・ロックシーン発展に多大な影響を与えた。初代キングから BEGIN・たま・FLYING KIDS など後にメジャーデビューを果たしたバンドを多数輩出し、日本のロックシーンにおける「アマチュアが堂々と演奏を競い合う場」を作り上げた。「ブーツィの「ンペッ、ンペッ」に踊り狂った」17代キングの耳が、キース・リチャーズのソロアルバムの中にPファンク人脈を見出したのも、音楽の必然だったのかもしれない。
PファンクとローリングストーンズのR&Rリズム比較
「ンペッ、ンペッ」というブーツィのグルーヴと、キース・リチャーズのカッティングは一見対極に見えるが、実は「音の間(ま)で踊らせる」という根本思想を共有している。
- 共通点:間(ま)が主役——Pファンクのシンコペーションも、キースのオフビートカッティングも、音を置かない瞬間に身体が反応する仕掛けを持つ。ブーツィが「ンペッ」の後に置く無音、キースがダウンストロークの前に溜める間——どちらもリスナーを前のめりにさせる
- 相違点:ルーツの地平——Pファンクはアフリカン・ポリリズムとゴスペル・シャウトを起点に複数のリズムが重層する。ストーンズはブリティッシュR&Bを経由した「2拍子の訛り」が骨格で、4拍子の中に3拍子の感覚を滑り込ませるシンコペーションを多用する
- 「Talk Is Cheap」での融合——ブーツィ・コリンズが加わることで、キースのR&Rグルーヴにアフリカン・ポリリズムの層が加わった。それが坂口さんの「ええぇー!どファンクかい!」という叫びを生んだ瞬間だ
Talk Is Cheapとあわせて聴きたいアルバム
ファンク×ロック融合の系譜をたどるなら、これらのアルバムが「Talk Is Cheap」と地続きの体験を与えてくれる。
- Remain in Light(Talking Heads / 1980)——バーニー・ウォーレルが参加し、ファンクとニューウェーブを接続。アフリカン・ポリリズムをロックに持ち込んだ先例として「Talk Is Cheap」と並んで語られる
- Vivid(Living Colour / 1988)——ヴァーノン・リードがジョージ・クリントンとの共演で体得したPファンク美学をヘビーロックに昇華。「Talk Is Cheap」と同年発表で、同じ問題意識(ロックにファンクを)を持つ
- Sign O' the Times(Prince / 1987)——PファンクとR&Bの語法を最も個人的な形で再構築したダブルアルバム。グルーヴが間から生まれることを全編で証明している
Keith Richards
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