
アルバムジャケットは人生の圧縮ファイル — Mitsuhiro Nakano
40年前の難波・新星堂でのジャケ買い — The Pretenders『Learning to Crawl』。
TAPthePOP と「人はなぜ音楽を聴くのか」
2013年に「TAP the POP」という音楽コラムサイトを運営するにあたって、「人はなぜ音楽を聴くのか」について考えたことがある。
- 「毎日の生活のテンションを上げたい」
- 「楽しみ、エンタメが欲しい」
- 「勇気や前進する力をもらいたい」
- 「辛い時、救われた気持ちにしてくれる」
- 「疲れが癒される、リラックスできる」
- 「大切な人と共感したい」
- 「みんなで一緒に歌いたい」
- 「あの頃の自分が蘇る」
- 「音楽をもっと探究、学びたい」
- 「仕事や企画のアイデアになる」
中でも、⑧の「あの頃の自分が蘇る」だけは、年齢を重ねるたびに、その効力が強くなっている。
バーで蘇った1984年
たとえば、たまたま入った店で何気なく流れてきた一曲によって、突然、過去の自分に引き戻されることがある。
もう二度と戻れないはずのあの瞬間、あの光景が、まるでどこかに保存されていたかのように再生され、次第に鮮明な映像となって蘇って来る。
そして必ずと言っていいほど、その曲が収録されたアルバムジャケットも同時に思い浮かぶ。
つい先日、一人で出向いたバーで、プリテンダーズの「Back on the Chain Gang」が流れてきて、高校時代の自分と密かに再会した。
新星堂でのジャケ買い、至福の40分間
──あれは1984年、学校帰りにレコード店に寄り道した時のこと。場所は大阪・ミナミの玄関口・難波。
<新星堂>には輸入盤コーナーがあって、そこの壁に飾られたアルバムジャケットの一枚が、プリテンダーズの『Learning to Crawl』だった。その隣には確かマイケル・ジャクソンの『Thriller』やシンディ・ローパーの『She’s So Unusual』が並んでいた。
直感的に「これだ!!」と思い、迷わず手に取ってレジへ向かった。家に帰って部屋でビニールを剥がし、輸入盤のジャケットの匂いを嗅ぎ、レコードを取り出して、ターンテーブルに乗せた。そこからの至福の40分間。
ただそれだけの40年前の断片が、脳内で再生された。別にどうってことない、どうでもいい記憶なのに、胸が少しだけ締めつけられた。
あの頃は、純粋に目の前の音楽のことだけに100%向き合えばよかった。15歳の特権だ。
アルバムジャケットは「人生の圧縮ファイル」
プリテンダーズの『Learning to Crawl』は、今でも気軽に取り出して聴けるアルバム。音楽的な理屈なんて不要。だから「Middle of the Road」「Back on the Chain Gang」「Show Me」なんかは何度でもリピートできる。
まさか40年以上経って、こんな話をするとは思わなかった。今やアルバムジャケットは、自分にとっての「記憶装置」であり、人生の「圧縮ファイル」なのだ。
編集後記
いま、この Album Sweet は、中野さん主催の TAPthePOP と提携して、混沌とした今の世の中で、音楽の力や物語、何かを変える力・可能性信じて、ただ消費される Music ではなく、豊かな音楽生活を送れる日々へのサービスを互いに提供している。今回「1枚」で原稿書いて頂いたが、20代のころ大好きだったクリッシーハインドの声をまた聴きながら読んだ。懐かしさと、当時の情景、この曲がかかっていた街角など一気に想い出した。中野さん、ありがとうございました。今後も音楽を豊かに楽しめるサービスをやり続けましょう。