
少年期に焼きついた、特別の一枚 — Captain Beyond《Captain Beyond》 — Kouji Shigematsu
目次
これまでの音楽人生の中で影響を受けたアルバムは多数あるが、誰もが知るいわゆる名盤以外であまり知られていない作品も有る。その中でも最初に出会ったアルバムがこれ、Captain Beyond の Captain Beyond!!
1972年、雑誌の宣伝文句に賭けた一枚
時代は 1972年、当時の私は中学 2 年生。洋楽 Pops から King Crimson・Pink Floyd へと趣向が変わっていた時期に、雑誌の宣伝文句につられた。元 Deep Purple、Iron Butterfly、Johnny Winter And のメンバーが集結し結成したスーパーグループとの事! これは買うしかない。
第一印象は、洗練されたブリティッシュロック。自然な変拍子を含めてカッコイイリズム・スペーシーなエコーの使用・ハードなリフ等、プログレ好きな私でもはまった。
スーパーグループの正体 — レーベル戦略の謎
実際日本では結構売れた、北欧でも売れたらしいが米英では売れなかった。しかし後年トリビュート盤が出た位なので、ミュージシャンを含めマニアが結構いたかも? 日本では販売戦術が功をといえる。
実際に販売したのは、アメリカの キャプリコーン レーベルであったが、日本ではブリティッシュロックのアルバムと並べて宣伝し、いかにもイギリスのバンドと思わせる売り方をした。イギリス人は 1 人で他の 3 人はアメリカ人であったが、キャプリコーンはアメリカのサザンロック中心のレーベルであったためキャプリコーンの名前は伏せており、当時の私はアイアン バタフライやジョニー ウインター アンドは聞いたことがなく、サウンドがブリティッシュロックであったこともあり、ディープ パープル関連のイギリスバンドだと思っていた。
どれほど好きだったかというと ファンクラブに入った程! ただファンクラブは会報が 1 回届いただけでその後自然消滅した。それは 2 枚目のアルバムがこけたのが原因。残念なことに 2 枚目のアルバムはメンバーチェンジもあり、ブリティッシュロック感が消え、サザンロック寄りになってしまい売れなかった。
メンバーの仕事を読み解く
それでは、アルバムについて解説しよう。
まず、ほとんどの曲は ドラマーのボビー コールドウェル(別人ですよ(笑))が書いている。この人ドラマーにもかかわらず(ドラマーの方失礼)作曲才能のある方のようで、その後に参加するヤードバーズのキース レルフらと結成した ARMAGEDDON でも作曲しており、このアルバムのような良い感じの曲を書いている、ただキース レルフ中心ですからねえ(わかるでしょ(笑))。作詞は ロッド エヴァンス。当時はわからなかったが後年気が付いたのだが、リフとかが完全に Jimi Hendrix の影響を受けている という事。
ギターの ラリー ライノ ラインハルト は、元々、アイアン バタフライの前はセカンド カミングというバンドでディッキー ベッツとツインギターで、その後のアイアン バタフライでもマイク ピネラとツインギターであったが、このアルバムでは、完全に計算されつくしたギターを弾いている。リッチー ブラックモアと比べられるので適当には弾けなかったようで、一部のフィルを除きアドリブと思われる所がない。ベースの リー ドーマン は安定したベースを弾いている。
A面 — 過去への乱舞から恐怖の激流へ
曲ごとに聞いていくと、
① 過去への乱舞
いきなり 8 分の 5 拍子 のドラムパターンで始まり楽器が積み重なっていく、そしてギターのハードなフレーズが絡みアンサンブルが進んでいく、アルバムの最初にふさわしい曲。
② アームワース
典型的なブリティッシュロックのリフを持つ曲。
③ 近視空間
ここまでの 3 曲はメドレーになっており、最後はスライドギターにエコーを掛けマーチングドラムで迎え撃つ 幻想性のある曲。
④ 催眠術
打って変わって 8 分の 7 拍子 のハードなリフから 8 分の 6 + 8 分の 5 へと展開していくヘビーロック。
⑤ 恐怖の激流
個人的にこのアルバムのハイライト曲。タイトルの通りスリリングなイントロの決めから始まり、激流を流されるようにころころと展開していく 劇的な曲。
B面 — 組曲が描く感情の風景
ここからは LP での B 面。B 面は組曲仕立てになっており切れ目なく繋がっており、静から動へ、悲しみと喜び、怒り、いろいろな感情が展開して行く。
⑥ 昨日はあまりに遠く(イントロ)
静寂の中からアコギの 8 分の 5 拍子のアルペジオが現れ、ベース・ヴォーカル・パーカッションと重なっていく。
⑦ 凍結
一転して激しいツェッペリン風のコードリフから、同じくツェッペリンの「移民の歌」をシャッフルにした感じに変化し、更に 8 ビートのハードロックへ変化する。
⑧ 昨日はあまりに遠く(過ぎ去った時)
前曲エンディングに早いテンポの 8 分の 7 拍子のアコギのストロークが重なってくる、8 分の 7 拍子にもかかわらずナイスなグルーブ!! 一体となった疾走感が素晴らしい!
⑨ キャント・フィール・ナッシング(パート 1)
こちらはジミヘンのスパニッシュ キャスル マジック風のリフからハードシャッフルへと展開して行く。
⑩ 静寂の対話(海の波に)
この曲も静寂の中からベースの鼓動・鉄琴・アコギのアルペジオ、ダイアログと重なって次曲へ。
⑪ アストラル・レディ
再びハードな 8 分の 7 拍子から始まり、ジミヘンのマニックディプレッション風のシャッフルへ(これもまたナイスなグルーブ!)。
⑫ 静寂の対話(海の波に)
3 拍子のメロウなコード進行の上をヴォーカルからギターメロディー、コーラスエフェクトのかかったコーラス(ダジャレじゃないです)で終わったかと思うと、一瞬の間をおいてサンタナ風のパーカッションインタールードのサウンドが始まり、そのまま切れ目なく最終曲へ。
⑬ キャント・フィール・ナッシング(パート 2)
ブレイクのあるキメから 8 ビートのハードロックへ展開、盛り上がり 大団円 を迎える。
キャプテン ビヨンドの 1st アルバムは、特別の作品
今回この原稿を執筆するにあたり、アルバムを聴き直したが、オープニングからエンディングまで一瞬で聴き終わってしまった。この時代のロックアルバムとしては他に類を見ない素晴らしい作品だと思う。
特に ドラマーのボビー コールドウェルは当時のアメリカのロックドラマーとしては、マイク シュリーブと双璧だろう。
このアルバム発売後、レーベルのキャプリコーンはレーベルのイメージとかけ離れたサウンドに恐れ、積極的なプローモションをしなかった。落胆したボビー コールドウェルはバンドを脱退、キャプテン ビヨンドはキーボード・パーカッションを加えた 6 人体制となりセカンドアルバムを作成したが、緊張感の消えたサザンロック寄りのサウンドであったため、日本のファンは落胆しバンドも解散を迎える。その後再結成するがジャズロックからフュージョンへと向かう時代であったため売れなかった。
このアルバムの良さを理解出来なかったキャプリコーンは残念でならない。
キャプテン ビヨンドの 1st アルバムは特別の作品です。
少年期の多感な時代にこんな音楽を聴けば、影響されるのは当たり前だっただろう。
編集後記
重松さんは、私(ナミオ)の大学生時代のサークルの先輩。入部したときに、仲間が「お、チャーがおるぞ。チャーが」と口にした、その言葉が今でも忘れられないぐらい、チャーに風貌が似ていた想い出がある。
ご本人はギターが凄腕なのはもちろん、いつも部室で楽しそうにドラムを叩いていた。尊敬する、凄くて、懐の深い、優しい人。
そんな重松さんが書いてくれたこの一枚。Captain Beyond。1972 年、中学 2 年生の少年が雑誌の宣伝文句に賭けた一枚が、半世紀を経て、変拍子・リフ・グルーブの解像度ごと、こうして言葉になって戻ってきた。少年期に焼きついた音は、年齢を重ねても色褪せない。むしろ、聴き手の手で何度も結晶化される。
このコラムを読んで、もう一度 Captain Beyond を聴き直してみたくなった方は、ぜひ Album Sweet のアルバムページ から音と一緒に味わってほしい。
— Namio